都会に生きる少女たちのリアルな日常や若者たちの閉塞感・渇望感などを、大胆に、そして毅然と描き出し、80〜90年代カルチャーを牽引したマンガ家・岡崎京子さん。男性誌、ファッション誌など媒体にこだわらず活躍の場を広げ、「pink」「リバーズ・エッジ」など次々と話題作を生み出しました。1996年の不慮の事故により活動を休止しながらも、今もその作品はファンから圧倒的な支持を得ています。
そんな岡崎さんの初の大規模な展示が、世田谷文学館にて開催中です。300点を超える原画、映画「へルタースケルター」の衣装、学生時代のイラストやスケッチ、小学校の卒業文集まで! 多彩な資料を通して、「岡崎京子」を形づくってきたバックボーンから見ることができます。
そんな展示の見どころや経緯などを、今回の展示の担当学芸員である庭山さんと宮崎さんのお二人にお伺いしました。
岡崎京子 初の大規模展覧会の見どころ
――まずは、今回の展示の見どころを教えてください。
庭山さん(以下、庭山):やはり300点以上に及ぶ岡崎京子さんの原画の展示です。簡潔な描線の美しさや、見開きで大きく描かれた風景の迫力などを感じられると思いますし、スクリーントーンの大胆な処理の仕方や修正の跡などから、生の息づかいや筆致が伝わってくると思います。モノとしての存在感のある原画で、印刷された作品を読むのとは別の見ごたえがあると思います。
もうひとつ注目していただきたい点は「言葉」の展示です。岡崎作品では、登場人物のセリフとは別に、胸に突き刺さるような詩的な言葉が、黒ベタのコマなどで挿入されるのが特徴的です。
宮崎さん(以下、宮崎):文学館ならではの着目として、そうした言葉の魅力を展示で感じていただけるような会場づくりを心がけました。
――切り文字で大きく展示された言葉が効果的でしたが、どの言葉を使うのか、決めたのはお二人ですか?
宮崎:アルバイトさんを含めて、みんなでマンガを読み込んでいったのです。
庭山:岡崎作品の中の言葉としてよく知られたものもありますが、もともとファンだった私などが選ぶとそういうものを選びたくなるバイアスがかかってしまうので……、むしろ他の人たちにまっさらな気持ちで読んでもらって、印象的な言葉をピックアップしてもらいました。
ポスターなどのキャッチコピーに「あたしは あたしがつくったのよ」という『ヘルタースケルター』からの引用を掲げたのですが、これは宮崎さんがピックアップしてくれたものです。岡崎作品でよく引き合いに出される言葉では必ずしもないですが、主人公のりりこが時代の流行に対して、流されるのでもなく、逆に拒絶するのでもなく、それらを主体的に選び取って自分を変革していく姿が表れていて、他の岡崎作品の主人公たちにも通じていると感じましたし、今回の展覧会にぴったりではないかと思いました。
宮崎:また、今回は図録を平凡社から発行することになりましたので、編集者の方と当館との打ち合わせで、お互いが気になる言葉を持ち寄って、最終的に選んでいきました。
庭山:担当編集者の岸本洋和さんも筋金入りの岡崎ファンで、周辺文化についても大変博識な方だったので、様々なアイデアをいただきました。
デザイナー祖父江慎さんの手で浮かび上がった、岡崎京子の世界
――アート・ディレクションをブックデザイナーの祖父江慎さんが手がけられたことでも話題になりましたが、どういった経緯で祖父江さんに決まったのですか?
庭山:岡崎京子さんの単行本の装丁を手がけてきた方として、祖父江慎さんは代表的なデザイナーのお一人ですし、近年は展覧会の会場デザインなども数多く手がけてらっしゃいます。お願いするのは恐れ多い気もしたのですが、思い切ってアタックしてみたところ、岡崎さんの展覧会ならばと快諾してくださいました。
宮崎:ポスターや図録などの印刷物だけではなく、会場も含めたアート・ディレクションを引き受けていただきました。お忙しい中で、「ここはこうした方がもっとよくなる」といったご提案を本当に親身に、かつ厳しい目で見てくださいました。
我々が用意した切り文字のカッティングシートを、祖父江さんに「この角度でこの位置」「額に潜り込ませるように」など指示していただいたり、何日も準備会場に通っていただきました。
庭山:祖父江さんの指示によって展示すると、俄然格好よくなっていくので、さすがだなと感嘆しました。
また、大きなガラス製ケース内に原画を吊り下げて展示しているのですが、これも祖父江さんが、本来マンガの原画は額装して飾るようなものではないのだから、吊るしてはどうかと仰ったことから試行的にやってみたものです。実際に仕上がってみるとなかなかおもしろい感じになったのではないかと思います。
宮崎:祖父江さんには、学芸員が考えがちな手法とは異なる展示の見せ方の発想をたくさん提案していただきました。
――準備中に大変だったことなどはありますか?
庭山:諸般の事情でポスターやフライヤー、カタログ、会場造作、関連グッズ制作など諸々の仕上げを最後の2ヶ月くらいで一気呵成に行なっておりましたので……、文学館の他のスタッフやデザイナー、印刷会社、会場の施工会社の方々などに大変な努力をしていただきました。ですが、お借りした原画やカタログにご寄稿いただいた方々の素晴らしい文章をお届けできる日を思えば疲れを忘れましたし、他のスタッフも同じ気持ちを共有していたのではないかと思います。
宮崎:運営スタッフも印刷所も会場設営チームも、みんな倒れそうになった日もあったはずです。
庭山:それから、昨年11月に桜沢エリカさん、安野モヨコさん、しまおまほさんのお三方によるプレトークイベントを行なったのですが、想像以上の反響があって申し込みが殺到したのは大変ではありました。『くちびるから散弾銃』のような、女性たちのおしゃべりの世界も岡崎作品の大事な要素ですしファンも多いので、それにちなんだ鼎談を行なって図録にも収録させていただき、ご多忙な中ご出演いただいたお三方にはとても感謝しています。
[後編へ続きます]
岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ
期間:2015年3月31日まで
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
会場:世田谷文学館 2階展示室
休館日:月曜日
料金:一般=800(640)円/高校・大学生、65歳以上=600(480)円/小・中学生=300(240)円/障害者手帳をお持ちの方=400(320)円
※( )内は20名以上の団体料金/※「せたがやアーツカード」割引あり/※障害者手帳をお持ちの方の介添者(1名まで)は無料
詳しくはこちら:http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html
【今回お話を伺った方】
庭山貴裕さん:世田谷文学館学芸員。「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」では主に企画・構成を担当。
宮崎京子さん:世田谷文学館学芸員。「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」では主に会場展示を担当。
インタビュー&テキスト:石田童子
(2015年2月5日、世田谷文学館にて)
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